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社長のひとりごと

~大分~

5月24日25日は土日でしたが、妻と大分に行ってきました。妻が臨床心理士という資格を持って、仕事をしていることは以前何度かこの講で記しました。この資格も、よくあるように年に何度か指定の研修を受講しないと、資格更新が出来ない決まりなのです。今までも東京や仙台にまで妻一人で出かけて行ったことがありましたが、今回は私が同行することになりました。研修会場が大分大学で、そこは大分からまた別の列車に乗らないといけないところで、元来が方向音痴の妻(周囲4㎞の瀬戸内海の孤島の出身が影響しているかも)は、ずっと不安を口にしていました。
 25日の朝、妻を大分大学の研修会場の前まで案内し、私は一人、大分大学前の駅まで戻りました。11:05発の豊後竹田行の列車に乗るつもりでした。妻は1日中、研修ですから迎えに行くのは夕方です。その間を利用して、豊後竹田に観光に行くつもりでした。切符を買って、駅のホームで列車を待っていました。ホームには私一人です。すると駅員さん(一人しかいないので駅長さんかも)が駅舎から70~80mくらい先で、ホームのベンチに座っている私のところまで来て
「犬養で列車のドアが故障のため、10~12分遅れています。どうも申し訳ありません」と、頭を下げ報告してくれました。そしてさらに
「もう少しで"ななつ星"(JR九州の超豪華列車)が通過しますよ」
私が観光客であることを知ってか、またはJR九州自慢のななつ星を見せたかったのか、とても人懐っこい笑顔とともに親切に教えてくれました。おかげで、通過していくななつ星を見ることが出来ました。
 豊後竹田はもちろん初めてです。日曜日なので駅にはきっと大勢の観光客が押し寄せているのかと思いきや、駅についてもタクシーこそ2台ならんで客待ちしていましたが、観光客と思しき人は4人いただけです。もっとも、大分大学前から2両編成の列車に1時間15分乗っていましたが、終点の豊後竹田で降りた人は私ともう一人のたったの二人でした。(余計なことですが、すぐに、これは赤字路線だ、と経営者感覚が噴出します)時刻は13:35、お昼をまだ食べていません。暑かったのでざる蕎麦かざるうどんを食べようと食堂を探しましが、ただの1軒もありません。
やむなく唯一の駅前食事処のカレー専門店でビーフカレーを食べました。おいしかったです。生ビールとカレーの相性は抜群です。それから観光案内所で電動自転車を借りて、市内見学に出かけました。10分も走ると、大汗が噴き出てきます。まだ5月というのに、とても蒸し暑く、風もありません。それでも瀧廉太郎記念館と歴史資料館を回って、武家屋敷通りを通ってキリシタン洞窟礼拝堂まで行きました。あたりには人っ子一人いません。洞窟の礼拝堂を覗き見ます。岩盤をくり貫いたと思われる薄暗い小さな礼拝堂です。ここで隠れキリシタン達が神に祈りをささげていた様子を想像していますと、急に、昔読んだ遠藤周作の小説「女の一生」※を思い出しました。なぜか、もの悲しく、不安で寂しい気持ちが体中に満ちてきます。急に妻に会いたいとの想いがこみ上げてきました。もう時間だし帰ろう。 
豊後竹田を15:12に出発し、16:23予定通り大分大学前に着きました。降りたのは私一人です。改札で切符を渡すと、例の人懐っこい駅員さん、私のことを覚えていて
「お帰りなさい。竹田はどうでした?」「お客さんはどこから来たのですか?」
と矢継ぎ早に質問してくれます。とても気分がよくなり
「神戸から来ました。竹田は良かったですよ。どうもありがとう」
駅員さん「そりゃあ良かった」と相づち。本当に愛想のいい気持ちのいい人です。
知らない土地に来て、しかも遠い九州大分の地で、思わぬ親切な人と出会う。なんとうれしいことでしょう。駅員さんに幸あれと願うばかりです。
 しばらくすると妻が駅前の道路の信号のところまでやってきました。信号待ちしていた妻は、私を見つけてコニコしながら手を振っています。研修を終えてホッとしていたのでしょう。たった6時間ほど離れていただけですが、本当にホッとしたのは実は、妻ではなく私のほうだったのかもしれません。アドラーは人生とは連続する刹那である、過去も未来もない、ただ今この一瞬を真剣に生きることだ、と説いています。妻と再会できた喜び、この一瞬に幸せを感じ、それを精一杯表現すること、そこに真の喜びがより深化していくのではないかと思っています。
今、私に欲しいものは何もありません。愛する家族と、仕事と健康があれば、これ以上何を望む必要がありましょう。自分に与えられた使命を、果たすべく、その一瞬、この一瞬を真剣に生きる、これに尽きると思っています。今回の旅は、そのことを思い出させてくれた、そんな旅でした。

※小説の背景は江戸時代ですから当然、キリスト教は禁止されています。キリシタンのキクという女性のはかなくも悲しい物語でした。場所は長崎であったと記憶しています。私はクリスチャンではありませんが、昔からキリスト教的なものに、なぜか興味があります。遠藤周作の小説にはキリスト教をテーマにしたものが多く、若い時の私は大いにその影響を受けました。


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