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社長のひとりごと

~トイレ掃除~

2019年7月

 もう15年以上前になると思います。取引先の社長がひょっこり訪ねてきて私に1冊の本をくれました。鍵山秀三郎著のたしか「掃除道」というタイトルでPHPから出版されていたと思います。(誰かに貸したまま返ってこないので、うる覚えです)その時まで私は鍵山氏のことは知りませんでした。でも読み始めていきますと面白いので1日で完読しました。その中で今でも覚えているのが、氏が掃除の啓蒙活動のため台湾に行って、そこで便器の上まで盛り上がったウンコを腕まくりして素手で押し込んで流した、という話です。イエローハットの創業者で当時、社長か会長かは知りませんが大企業経営者である人が、いかに掃除が大事であるかを伝えるためとはいえ、素手で他人のウンコを指先ではなく手のひら全体で触るなど正気の沙汰ではない、といたく感動しました。また小便器用の水こしを洗ってピカピカにし、それでもってビールで乾杯するという話も衝撃でした。それ以来、鍵山先生のファンになり今では会社の朝礼で氏の“一日一話”を社員全員で読むまでになりました。私はというと早速、鍵山先生の真似をして会社のトイレ掃除をするようになりました。(先生はゴム手袋とか使わずに素手で掃除することを勧めておられますが、私の場合、最初はそうしていましたが、残念なことにアルコールとか洗剤とかで手が荒れるようになり、今はゴム手袋を使用しています)トイレ掃除を始めた理由は簡単です。これをすれば何か良いことがあるのでは、うまくいけば会社が儲かるようになるかもしれない、という打算でした。事実、当時、朝礼で「打算でもいいから、人の役に立つことをしなさい。しないよりはしたほうがいいですから」と訓示していました。今、想い起すと自分の醜さに吐き気がします。なんだかんだ言って結局、自分のことしか考えていなかったのです。鍵山先生は何か良いことが起こるから、会社が儲かるからトイレ掃除をしなさいとは考えていないと思います。“大きな努力で小さな成果を”と言われる氏の考え方は、結果としての成果よりも今、目の前にあることに精一杯努力することの大切さを説かれたのではと思います。私が朝礼で人の役に立つことをしなさい、と訓示するのは実は「俺はこんないいことをしているんだ」と暗に自分のトイレ掃除を誇示したことにほかならないのです。これはおよそ仏教でいう徳や功徳を積む、と対極にある行為でした。良いことは人の目につかないところで、誰にも知られずにやらなければなりません。と言いつつも煩悩具足の私などは、どこか人に知ってほしい、と思う気持ちが完全に拭い切れません。でも心配はありません。人は見ていなくても神様、仏様がちゃんと見て下さっています。以下は仏教を勉強するようになって知った物語です。

 中国 梁(りょう)の皇帝武帝がインドから来た高僧達磨大師(だるまだいし)に尋ねます。「私は寺を建て、写経をし、僧を度す(助けること)ことなどいろいろやった。私にはどのような功徳があるか?」皇帝武帝は仏教庇護のためにいろいろ尽力した人です。すると達磨大師は「無功徳」と答えました。つまりあなたに功徳はありません、と返答したのです。

仏教ではとても有名な物語です。自分はこれだけのことをやった、と誇示するような人の行為は功徳ではない、というとても厳しい教えです。私たちはいつも自分を評価して欲しいという煩悩から抜け出せません。でも真に幸福な生き方を望むのであれば、自分が正しいこと、善いことと思うことを人に知られず実行していく。これが何よりも大切なのではと確信するようになりました。気付くのが遅かったようですが、少しずつ実行していきます。


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